君がいたから〜二人の闘病記11「腹膜播種」

其の十一「腹膜播種」


次の試練がやってくるのは早かった…

翌年2010年初秋、検査で腹膜播種が見つかった。この時のO先生の慌てぶりから事の重大さを悟った。

診察室でO先生はCTの画像を凝視し、検査室とかあちこちに電話して、

「MRIの予約がうちの病院だとすぐに取れないので、ここへ行って至急MRIを撮ってきてください。ちょっと高いけど緊急ですから。腹膜に転移してます。腹膜播種です」

え?何それ?腹膜播種?

最初聞いたときは、そんな感じだった。

夫にもすぐ電話をして「腹膜播種」であることを伝えた。お互い腹膜播種という言葉をすぐに検索してみた。ネットで出てくる腹膜播種の悲観的状況を会う前にお互いに知った。

「内臓を包んでいる腹膜にガン細胞が散らばってしまった状態」

ここに転移してしまうとほぼ絶望的であることを知った。

その日の夜、どんな会話をしたんだっけ…だけど希望を捨てるような悲観的な雰囲気ではなかったと思う。

たぶん夫はカラ元気でもいつものように

「大丈夫だよ、あっこなら絶対大丈夫だよ」

って言ってくれてたんだと思う。

翌日、新宿西口にある検査専門のクリニックへ事務所から自転車で向かったのを覚えてる。まだ夏の日差しが残る抜けるような秋の青空だった。あー今日も世界は美しいんだな、私がこの世からいなくなってもこの美しい世界はそのまま毎日美しくここにあるんだろうなぁ、そんな事を思ったのを覚えてる。

ものすごく精密なMRI撮影で呼吸を止める時間も長く絶対に動かないでくださいと強く言われた。撮影した画像は自分で持ち帰ったのか、病院へ送られたのか、覚えてないけど、検査技師の方々の視線が私を哀れむように感じられ、やはり大変な事態なのだと再認識した。

数日後の診察には夫も付き添ってくれた。

いよいよ余命宣告を受けるかもしれないわけだから…

ところがO先生から

「幸いにもガン細胞が一箇所に集中しているので手術してみましょう」との希望の言葉が。

抗ガン剤を投与しても効果は低いそうで、一か八かトライしてみたい、しかし、もし実際にお腹を開けてみて転移の範囲が広い場合はすぐに閉じてしまうとのこと。そして取り除けない確率の方がかなり高いこと。

私たちは「手術してください」と即答した。

手術日は12月の始めに決まった。

また不謹慎にも、年末にライブがあるけどこれなら間に合う、と思ってしまった事を覚えてる…

この日から私たち夫婦は真剣に、生きること、死ぬこと、出逢いと別れ、家族、人生、時間、生き甲斐、様々なことを考えながら、1日を惜しむように暮らした。

夫は私が先に旅立つことを受け止めようとしていただろうか…

手術までの間、ちょうど夫の誕生日頃に休みを取って二人で伊勢神宮を参拝した。

レンタル自転車を借りてほぼ主だった神社をお参りした。二人で並んでお参りしてるとき、夫はどんな気持ちだったんだろう。

「絶対大丈夫だよ」

それが夫の口癖のようになっていたけれど、それを言うたびにどんな思いだったのだろう…心が挫けてしまいそうだったんだろうなぁ…

「あっこ、この大きな木に抱きついてパワーを分けてもらえ!」

何本もの大きな木々たちに抱きついて目を閉じて祈った。あの時も、空は青く空気は澄み渡り、世界はとても美しいなぁと思った。こんな美しい世界に生まれこの人に出逢い家族になれて本当に幸せです、ありがとうございます、と、神様に感謝したんだ。そして、もう少しだけこの世にこの人と一緒に生きさせてくださいと祈ったんだ。

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